納車が遅れる場合のリスクと対処法②【解除(解約)のクレームについて】

車解約

 前回は納車が遅れる場合の損害賠償のクレームについて説明しましたが,今回は,契約解除のクレームについての説明です。今回も前回例に挙げた状況を基に解説していきます。
 
 
 
 

 A販売店は,平成26年8月31日にXさんと中古自動車の売買契約を締結しました。契約時には,A販売店はXさんに対して,納期は2週間程度と口頭で説明していたのですが,A販売店の従業員で整備担当者が急に病気になってしまいました。急遽他から人を呼んだのですが,他の納車もあったので,Xさんに対する納車は結局10月上旬になってしまいました。Xさんは,契約した中古自動車が気に入っていたので納車は待ちましたが,その他に自動車を持っていなかったので,納車までの間はレンタカーを借りていました。

1 契約解除とは

 自動車売買契約を締結すると,販売店は納車をする義務が,購入者は代金を支払う義務が発生します。ただ,販売店が納車をしないのに,購入者が代金を支払わなければならないのは不公平ですので,法律は,契約解除といって,契約が初めからなかったものとする制度を用意しているのです。

2 契約解除の要件

2.1 どんな場合に解除できるか

 自動車の納車が遅れて,前回説明した履行遅滞になっている場合,購入者としては契約を解除して,違う店から自動車を買いたいと思います。ただ,納車が遅れたからといって,すぐに契約解除を認めてしまうと,いままで納車に向けて動いていた販売店が可哀想だということで,法律は,契約を解除するには,「催告」を行うことを条件としています。

2.2 催告って何?

 催告とは,要は購入者が販売店に対して,自分が買った自動車を早く納車して,と要求することです。この催告は,相当期間の時期を販売店に与えて(自動車販売だと,1週間から2週間程度),最後のチャンスをあげるのです。そして,この催告の期間を過ぎると,購入者は契約を解除することができるようになるのです。

 先ほどの例で言えば,Xさんは8月31日に売買契約を締結して,A販売店から2週間程度で納車されると思っていたのですが,9月下旬になっても納車されないので,9月30日に,A販売店にあと2週間で納車して下さいと通告しました。そして,10月14日が過ぎても納車されなかった場合は,Xさんは契約の解除をすることができるようになります。

3 契約解除の効果

3.1 義務の消滅

 まず,契約解除の効果として,お互いに契約を締結したことから発生する義務が消滅します。納車が遅れて,購入者が解除する場合は,代金支払義務がなくなります。
 この解除をしないと購入者としては,販売店にずっと代金支払義務を負っていることになります。この場合,仮に販売店から代金を支払えと言われた購入者は,「納車してくれるまで代金は払いません」と要求を突っぱねることも法律的に認められています(これを法律的に「同時履行の抗弁権」といいます。)。
 ただ,販売店から納車があったらこのような主張はいえなくなるので,購入者としては販売店が納車をしないことが明らかになるまで,新たに自動車を探すことができなくなります。
それだと,購入者に可哀想だということで,義務を消滅させる解除という制度があるのです。

3.2 原状回復

 解除の効果の二番目として,原状回復する必要が出てきます。契約の解除とは契約が無かったことにする制度のことですので,契約が無かった状態にまで元に戻すこと,すなわち原状回復する必要があるのです。
 例えば,納車を受けるのが遅れていたXさんが,既にA販売店に対して自動車の代金を支払っていた場合,契約が解除されたらA販売店は代金をXさんに返さなければなりません。
まあ,当然のことといえば当然ですが,このような当然のこともしっかり定めてあるのが法律なんです。

3.3 販売店が納車の準備をしていたら

 では,販売店がすでに納車の準備として,自動車の整備やパーツの交換を済ましてその費用がかかっていた場合,その費用はどちらが負担すべきでしょうか。
 販売店からしたら,契約を解除するならせめて,整備費用やパーツにかけた費用くらいは支払ってもらいたいもんです。でも,解除とは契約を初めから無かったことにする制度ですので,整備費用も販売店負担となります。

3.4 損害賠償請求もできる?

 購入者のXさんは,A販売店の納車が遅れたので,とりあえずレンタカーを借りていましたが,2週間経っても納車されないので催告して解除しました。この場合,Xさんは,A販売店に対してレンタカー代を請求できるでしょうか。
 何度もいうように,解除とは契約を初めから無かったことにする制度ですので,この考えからすると,Xさんはレンタカー代を請求できないようにも思えます。しかし,法律は,契約解除の場合でも,損害賠償は請求できるとしています。つまり,Xさんは,A販売店に損害賠償として,レンタカー代を請求できるのです。

4 リスクと対処方法

これまで見てきたとおり,A販売店としては,納車が遅れて,契約が解除されたら,自動車代金は請求できず,自分がかけた整備費用等は請求できないだけでなく,Xさんのレンタカー代まで支払わなければならないのです。
 このような踏んだり蹴ったりの状態になるのも全ては,納車が遅れるというA販売店のミスから生じるのです。

4.1 対処法①(履行の時期を明確にしない)

 せっかく自動車が販売できても,納車まできっちり完了しないと,せっかくの販売代金どころか,時間と費用をまるまる無駄にしかねません。
そのため,まずは,解除の条件である履行遅滞になることは,できるだけ避けるに越したことはありません。
 履行遅滞にならないための方法としては,前回も説明しましたが,納車の時期を明確にしないことが重要です。特に,人気車種で,納車が遅れるであろう事が予測されている場合は,あらかじめ購入者に断っておく等のケアが必要です。

4.2 対処法②(それでも納車が遅れてしまった場合)

 履行遅滞にならないように気をつけていても,現実には思わぬ事態から,どうしても納車が遅れてしまうことが出てくると思います。そのような場合には,なるべく履行時期をのばすため,購入者の了承を得ることです。そんなに納車を急いでいない購入者ならわりと了承を取ることは可能ですので,口頭でもいいので了承を取るべく動いて下さい。
 納車を急いでいて,クレームが強い購入者の場合は,遅れる分だけのサービス(代車を手配することや,オプションをつける等)をしてでも,購入者の了承を取ることも考えて下さい。それでも契約が解除されてしまうよりましだと思いますから。

4.3 対処法③(最悪の場合には)

 ただ,あまりにもクレームが強くて,無茶な要求をしてくるクレーマーの人の場合,契約を解除するというのもやむを得ない場合の一つの手かもしれません。そのようなクレーマーの方は,遅れながらも頑張って納車したとしても,あとあと難癖をつけてくることが大いにありますので,営業的にはダメージでしょうが,後々の大きな問題を発生させないためにも早めに契約関係を切ることも大事だと思います。

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