納車が遅れる場合のリスクと対処法①【損害賠償のクレームについて】

損害賠償

 自動車取引において,納車の時期は購入者に説明しなければならず,販売店としても気にかける部分ではあります。ただ,人気の車種だと納期待ちになることもあり,先に成約しておきたい場合もあります。他には,年末年始,夏休み期間中を挟む場合,整備の遅れや部品の調達の遅れなどで想定以上に納車までに時間がかかってしまう場合も時にはあると思います。

このように,納車時期が確定しなかったり,予定より納車が遅れる場合は,購入者からクレームが出やすい場面といえます。

今回は,納車が遅れる場合のリスクとその対処法について,具体例と共に述べたいと思います。

 A販売店は,平成26年8月31日にXさんと中古自動車の売買契約を締結しました。契約時には,A販売店はXさんに対して,納期は2週間程度と口頭で説明していたのですが,A販売店の従業員で整備担当者が急に病気になってしまいました。急遽他から人を呼んだのですが,他の納車もあったので,Xさんに対する納車は結局10月上旬になってしまいました。Xさんは,契約した中古自動車が気に入っていたので納車は待ちましたが,その他に自動車を持っていなかったので,納車までの間はレンタカーを借りていました。

1 履行遅滞と損害賠償

1.1 履行遅滞とは

 自動車売買契約を締結した場合,購入者は代金を支払う義務を,販売店は自動車を引き渡す義務を負うことになります。
そして,予定より納車が遅れてしまった場合,販売店の自動車の引渡義務の不履行(約束が守られなかった)となります。これを法律的に「履行遅滞」といいます。
A販売店は,納車まで2週間程度と説明しているので,2週間で納車できなかった場合は,「履行遅滞」になってしまいます。
 

1.2 履行遅滞になるのはいつから?

 納車が通常より遅れたとしても,すぐに履行遅滞となるわけではありません。履行遅滞と法的に評価されるのは,契約時に約束した履行時期に遅れるときになります。具体的にどんな場合か考えてみましょう。
 

1.2.1 納車は9月22日と明示した場合

 納車時期をある特定の日であると契約書に記入したり,購入者に説明して明示した場合,当該特定日が法律上の履行期限となります。そのため,特定日を過ぎてしまったら(9月22日以降になったら),履行遅滞となります。
 

1.2.2 納車は契約日から2週間程度ですと説明した場合

 この場合は,「1.2.1」の場合と違って,納車の時期がわりと緩やかに特定されていますので,この日を過ぎたら履行遅滞と言い切ることが難しいです。2週間「程度」とは前後2,3日を含みますので,2週間経過後にすぐに履行遅滞とはなりません。ですので,最初の例のように8月31日に契約していたとしたら,9月17日を過ぎたあたりで履行遅滞と評価されるでしょう。3週間を過ぎた9月21日になったら確実に履行遅滞です。
 

1.2.3 納車時期を特に定めなかった場合

 この場合は,納車の時期が全く特定されていないので,このままだといつまで経っても履行遅滞と法的に評価されることはありません。このような場合,購入者が販売店に対して,「あと2週間以内に納車して下さい」と言うことにより,指定期間が経過後から履行遅滞となります。

1.3 履行遅滞の効果(販売店のリスク)

 履行遅滞に陥った場合,民法は,購入者が販売店に対して損害賠償を請求できると定めています。

民法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。

この損害というのは,納車が遅れたことによって購入者が受けた相当な損害を指します。このため,納車が遅れることによって,販売店は,購入者に金銭を支払うことになる可能性があるというリスクが発生します。
履行遅滞の効果(リスク)としては,他にも契約の解除が可能となりますが,この解除については,後日説明したいと思います。
 

2 損害って何?

2.1 精神的損害

 納車が遅れた場合,購入者にはどんな損害が生じるでしょうか。
早く買った自動車に乗りたかったのに,乗る時期が遅くなってがっかりして落ち込んだから,この心が傷ついた分を賠償しろ!といっても通常,この請求は認められないか,仮に認められたとしてもごくごく低額になります。こういうことを言いたくなる気持ちは分からなくもないですが。。
心が傷ついたという精神的損害は,法律では慰謝料と呼ばれています。そして,自動車などの「取引行為」に起因する場合はほとんど金銭に評価されないのが実情です。慰謝料が高額になる事例は,交通事故や不倫などの「取引行為」ではなくいわゆる事故や事件を起こした「不法行為」と呼ばれる場合になります。

2.2 金銭的損害

 慰謝料を取ることができない代わりに,取引行為における履行遅滞の場合の損害は,金銭的に評価されます。そして,この損害とは,前述したように,納車が遅れたことによって購入者が受けた相当な損害です。
ここでのポイントは,購入者が受けた損害というところです。つまりは,実際に購入者によって支払われていないと損害を請求できないのです。
 

2.3 本件で認められる損害

 納車が遅れた場合の損害とは,購入者が実際にお金を支払うなど,金銭的に損害が生じた場合の損害を指します。
 先の具体例で言うと,Xさんは納車が遅れた時期にレンタカーを借りて,本来支払わなくてもいいお金を出す羽目になりました。そのため,A販売店はXさんに,レンタカー代やレンタカー屋までの交通費を損害賠償として支払う必要があります。要は代車代です。代車代は相場として一日5000円~1万円位でしょうか。
  

3 損害賠償の範囲(ベンツにも乗っても大丈夫?)

 ところで,Xさんはちょっと法律に詳しくて,借りたレンタカー代はA販売店に支払ってもらえることを知っていたので,せっかくならと,一日3万円もするベンツの高級レンタカーを借りていました。このような場合,A販売店は,支払う必要があるのでしょうか。
答えはノーです。
 上で説明したように,Xさんが請求できる損害の内容は,無限定ではなく,相当な損害という限定が付されているのです。
確かにXさんは,A販売店の納車が遅れたことにより,本来なら支払わなくてもよいレンタカー代を支払う羽目になったのですから,その分は請求できることが公平です。ただし,そのような機会に乗じて,本来ならXさんが乗ることのできなかったベンツのレンタカー代まで支払わせるのは,Xさんを不当に利することになり妥当でありません。
  
 これを読んだ人の中には,そんなの当たり前だろうと感じられた方もいるかと思います。ただ,法律というのは,ほとんどの場合このような常識を基にして使われているのです。当たり前のことを当たり前に認めさせるために,法律の意義があるのです。

4 まとめ(販売店が採るべき対応)

 このように,納車が遅れた場合,販売店は購入者から金銭賠償を求められる可能性があります。そのため,まずは納車時期は,明確に指定しないで,ある程度余裕を持って定めておく方が無難だといえます。
 購入者から「納車は◯日までなら大丈夫ですか。」と特定の日を出して聞かれた場合には,営業的に答えなければならないですね。ただ,そんな場合にでも,「万が一遅れる場合もあるので,その点はあらかじめご了承下さい。」などと一言言っておくだけでも,後々の法律的トラブルを回避できるので,参考にして下さい。

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